新しい卵巣機能低下の回復法
当院では河村和弘博士の下で、卵巣機能の低下した症例に対する治療を2016年より開発してきております。
適応
適応は高齢となり発育する卵胞数が1、2個と少なく、また採れた卵子のグレードが低く受精率が低いまたは分割率が低く移植ができない方です。ただし条件として毎月規則正しい月経と排卵があることが条件です。
2つ目の適応は年齢が30歳代で卵が1~2個しかできないAMH(抗ミュラー管ホルモン)が非常に低いような方。
3つ目は子宮内膜症などで手術を行い、年齢は30歳代でもAMHが低く卵胞があまり発育しない方たちを適応としております。
治療法
2泊3日で全身麻酔下の腹腔鏡で行い、手術時間は約1時間半になります。
この方法の原理は河村和弘博士が考案し、一部当院で改良を加えた方法で卵巣予備能の機能が低下した卵巣に物理的に刺激を加える。すなわち腹腔鏡下に卵巣の一部表層を剥離し、これを細かく1mm角にして、卵巣内に移植致します。その刺激によって新しく前胞状卵胞の発育を目的とし、採卵できる卵胞数を増やすという方法です。
結果
今までの結果、卵子の数は約2倍に増加することが証明されておりますし、分割率も高くなっていることが証明されております。
女性は約50歳時に卵巣機能が低下し閉経となりますが、これは生理的な現象であり、決して何かが欠損していたり、卵巣機能に問題があったりするわけではありません。しかし、妊娠するためには最も条件の悪い状況に向かってきておりますので、なるべく早い時期にこの治療法をお勧めしたいと思います。
同意説明文書は、こちらのPDFをご覧ください。
重症卵巣機能不全の治療について
挙児を希望される女性にとって最も治療が困難と考えられている卵巣の異常な状態として早発卵巣機能不全(以前は早発閉経と呼ばれていた)と、加齢または内膜症などの手術による卵巣機能の低下のDOR(Decreased Ovarian Reserve)の二通りあります。前者は一般的には初潮は正常で、20歳から25歳頃までは正常であった月経が無月経となり、閉経状態となる病気で、原因は不明です。後者の状態は加齢により卵巣内の成熟した卵子の数が減少することによって起こる、ある意味では生理的な状態です。後者に関しては、下記の「老化卵巣(Decreased Ovarian Reserve:DOR)の治療について」をご覧ください。
前者に対してはIVA(In Vitro Activation)、卵巣活性化療法という方法があります。(図 参照 画像クリックで拡大されます)
図:IVA(in vitro activation)のプロトコール
出典:河村和弘氏 著 鈴木直氏 編「卵巣組織凍結・移植」医歯薬出版株式会社、2013年
これは委縮した卵巣の一部分を取り出しその中に原始卵胞、一次卵胞がいることを確認した後に保存してある卵巣内の休眠している卵子を刺激して卵胞を発育させ体外受精をする方法です。この場合には二回の腹腔鏡手術が必要となります。一回目は卵巣の片方を摘出し、その卵巣内に原始卵胞、一次卵胞が残っているかどうかを調べる検査です。二回目は凍結してある卵巣組織を卵巣内、又は卵管漿膜下、卵巣間膜下内に移植する方法です。
後者は少なくとも月経が規則正しく、1個は卵が出来ている状態ですので、この組織を前者と同様の方法で取り出しこれを短時間培養後、同様の手技で移植する方法です。
前者の治療は今年度より日本産科婦人科学会で【生殖・内分泌委員会「本邦における早発卵巣不全に対する生殖医療の実態調査」に関する小委員会】という委員会が立ち上がり、学会として統括して行うようになりました。私たちも参加し治療を開始いたしました。後者に関しては3年前のAMED(日本医療研究開発機構)でこの治療を開始し既に200例以上の治療を行い、26例が妊娠しております。
老化卵巣(Decreased Ovarian Reserve:DOR)の治療について
早期早発卵巣不全(Primary Ovarian Insufficiency :POI)とは適応が異なります。
POIに対するIVAでは薬剤を使っておりましたが、今回は薬剤を使わない2通りの手術となっております。
・第一の方法
卵巣の表面を切除、切開する等の外部的刺激を施すことによって細胞内の成長因子などの新生を促し、二次卵胞を発育させます。
・第二の方法
卵巣の皮質に物理的な障害、すなわち一部に切り傷を入れることで老化の原因である線維化を減少させることにより血管を新生させ、一次卵胞、二次卵胞の発育を促します。
図:第一の方法(画像クリックで拡大されます)
結果
卵巣皮質に外科的な切除を加えることにより、成熟した卵胞数および8細胞到達率が明らかに増えました。
この方法を195症例に施行し、25例の臨床妊娠、7例の出産を認め、2例が妊娠継続中です(※2022年6月時点)。妊娠率はある程度良い結果となりましたが流産率が高く、未成熟な卵子でも既に老化が始まっていることが推測されました。しかしながら過去に一度も移植できなかった症例に出産例が報告された為、臨床する意義があると考えます。
新しい老化卵巣機能回復法の開発
当院では従来の同法の臨床成績を向上させるために新しい方法を開発いたしました。この方法は従来の方法と同様に腹腔鏡下に行いますが、1日目は卵巣の一部分を取り出し、この組織を一晩培養液の中に漬けます。この度新しく血小板の中にある卵子の成長に影響を与える成長因子が多く含まれている部分のみをこの培養液の中に入れて一晩原始卵胞または一次卵胞を培養し翌日移植いたします。 そのため入院日数が従来の方法より1日増えますが、費用は40万円と経済的な負担を軽くするようにさせて頂いております。