ピエゾICSI -顕微授精法の改良-
Piezo ICSI -顕微授精法の改良-
従来の顕微授精(ICSI)は、針の先端を卵子の透明帯から細胞質まで深く押しつけて透明帯を貫通し、さらに細胞膜を押し込み、細胞膜に陰圧をかけて破るという一連の操作が必要とされていました。そのために卵子に対するある程度のダメージは避けることはできませんでした。特に老化した卵子や、凍結後に融解した卵子にはその影響が顕著になると思われました。
これに対してピエゾ(Piezo)法は、透明帯を押すことなく囲卵腔に達することができ、また細胞膜を軽く押した時点で一回のパルスをかけることにより、細胞膜は容易に穿破できます。この点よりPiezo法を用いた顕微授精の方が卵子に対するダメージが少なくなります。
このPiezo法は30年ほど前に日本で開発された技術ですが、当時は使用する針を細くする技術が無かったため、臨床的にはあまり普及しませんでした。2,3年前より、Piezo法用の細く、なおかつ薄くした、臨床用の針が市販されるようになり、この技術が急に普及するようになり、従来のICSIに比べ受精率が60~70%から80~90%、胚盤胞率が10~20%上昇しました。
Piezo ICSIの更なる改良
従来のPiezo ICSIの欠点は、精子全体を細胞質内に注入する際にかなりの量の培養液が入ってしまう点でしたが、後でこの培養液を吸引することにより受精率を得ることができました。
しかし、私たちは、精子の尾部を短くして注入する精子全体の量を減らすことにより、Piezo法の注入の操作を、より簡便で確実にすることを目的として、改良を行いました。その大きなポイントは、精子の尾部を全体の1/3から1/4に切断して短くすることにより、精子を尾部から吸うことを可能とした点です。従来のPiezo ICSIは精子を注入する際に尾部から細胞質内に入れる必要があり、培養液の注入量が増加していましたが、尾部を短くすることにより、従来のICSIと同様に頭部より顕微授精ができるようになり、注入する培養液の量も減少し、Piezo ICSIの操作自体も容易に確実にできるようになりました。この点が今回の改良点であります。この改良点で、特にダメージを受けやすい老化した卵子の胚盤胞率は約10%上昇しました。