新しい排卵誘発法のお知らせ(OHSSをゼロにする方法)

新しい排卵誘発法のお知らせ(OHSSをゼロにする方法)

スライド1

 現在不妊治療が保険化され多くの方に不妊治療を受けるチャンスが増えておりますが、最も大事なことは妊娠率を上げることと、母体の健康に害を及ぼすような副作用を決して起こさないことです。この副作用を恐れるがあまり発育卵胞数を減らしてしまう方法が一般的に行われています。すなわち低刺激法です。低刺激法は身体にとって楽かもしれませんが妊娠率が低くなる大きな欠点があります。この現状を大きく変えようとして私達は新しい排卵誘発法を開発しました。すなわち、卵巣機能を抑えて発生できる卵子の数を減らすことなく自然に発生する卵子を発育させ、尚且つ採卵後の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生をほぼゼロに抑えるという方法です。
 従来は卵の数が多いと卵の質が下がることが一般的に認められており、尚更数を減らす傾向が強くなっておりましたが個人のもつ卵巣の機能は卵巣の個性であるという考えに立ち、その個性を敢えて変えることなく質の高い卵をしっかりとつくることが重要であると考えました。そのためには従来の方法ですと、卵子の数が増えると卵巣から分泌されるホルモン、エストラジオール値が高くなってしまいます。通常、5000pg/ml以上ではリスクが高いということで治療をやめることもあります。これでは良い卵は採れません。そこで私たちは、卵をしっかりと成熟するまで育てます。その結果、エストラジオールの値が高くなっても構いません。卵子の数が増えることによりエストラジオール値が高くなり採卵後に卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という副作用を完全に抑制することが出来れば問題ないわけです。この方法が、以下に述べる方法です。

 我々の排卵誘発法はまずしっかりと卵子をつくります。とはいえ、やはり20~30個以内が目標です。それ以上多くなるとやはり採卵時の出血のリスクが伴います。卵の数が20~30個になるとエストラジオールの値10000pg/mlを超えることもあります。この場合、そのまま切り替えのHCG等を打ってしまうと、卵胞がとんでもなく腫れてしまいます。そこで私たちが始めたのが、この高くなったエストラジオールの値を、一旦アロマターゼ阻害剤(フェマーラ)を服用することによってエストラジオールの値を正常値の1000pg/ml以下に下げ正常な状態にした後に、卵子の成熟度を高めるための最終的なトリガーとなるGnRHアゴニスト(スプレキュアという経鼻噴霧剤)を使います。その後採卵した直後より3種類のお薬、フェマーラ、カベルゴリン(これは乳汁分泌を促進するプロラクチンを抑えるお薬です。このお薬は卵巣が腫れるOHSSを抑える作用があります。)、GnRHアンタゴニストを5日間使用することで、OHSSの発生はほぼ0になります。すなわち、排卵後、エストラジオールやプロゲステロン値が高くなるとVEGFというホルモンが高く分泌され血管透過性が高くなり血管内の水分が血管の外に流れ出て血管内の血液がドロドロとなり血栓塞栓症という副作用を起こすリスクが高まる訳です。ですからこのVEGFというホルモンを全く抑え、黄体をつくらない作用のある3つのお薬を使用すれば月経が採卵後5~6日目に始まります。月経が始まれば正常に戻ると考えて結構です。ですから、副作用が起こることは無いのです。
 このような画期的な方法が、その後の卵巣の機能になにか影響を及ぼすのではないかというご心配もあるかと思いますが、我々の結果では一ヶ月間治療をお休みすれば完全に正常な状態に戻ります。

 まとめ

 我々の開発した方法では卵の発育卵胞数は減少させず20~30個できても構いません。しっかり成熟するまで待つのです。その後、アロマターゼ阻害剤でエストラジオールの値を正常値に戻した後にトリガーを使用すれば質の高い多くの卵子が採れます。
 採卵直後より3つの種類のお薬を5日間使うことによりOHSSの発生はほぼ0になります。平均的に胚盤胞が6~7個発生し、凍結することができます。この一回の採卵で凍結胚が5個以上できれば1人目、2人目、3人目のお子さんは毎回採卵をしないでそのまま凍結胚を移植することができる訳です。3人目のお子さんとなると母体は5歳ほど歳をとってしまいますが凍結している胚は5年前の若い卵子ですので妊娠率は下がりません。これが我々が目指して行っている排卵誘発法です。当院ではこの方法で若い方の排卵誘発法を安全に、且つ効率良く治療成績を改善することが出来る、臨床成績を英文で全世界に発表しました。厚生労働省にも本法の有用性を認めてもらうように報告しております。

実際に出産に至った症例

3点セットの図

 月経3日目よりFSH製剤を投与し、15~16mmになった時点でHMG製剤に切り替えます。
20mになった時点よりアンタゴニストを連日投与しはじめます。12日目では22mmでE2値は5000、そこから卵胞を大きくするためにアンタゴニストを1本追加したところ主席卵胞は26.8mmでE2値は8865となります。ここでトリガー、リュープリンを2mg投与すると2日後の採卵後にはE2値は776と急激に低下しております。この採卵後にレトロゾール、カベルゴリン、GnRHアンタゴニストを5日間投与し様子を見ております。

穿刺数は49個、採卵数は38個でその内良好胚を9個凍結しております。消退出血は6日後に生じております。

新しい排卵誘発法での治療結果

3点セットの表

こちらは今回の結果です。
レトロゾール使用群と未使用群に分けて比較しております。ほとんど有意差は認められませんでした。有意差が認められた項目はただ一つで、凍結胚の平均数です。
レトロゾールを使用した群、すなわちE2値が高く卵胞数が増えた症例では当然平均卵胞数は増えております。1回あたりの妊娠率・流産率には有意差はございません。しかしながら本法の目的とする1回あたりの累積妊娠率・出産率は約70%となることが分かりました。この点が、本法の最も優れた点だと思います。

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