採卵~体外受精or顕微授精~胚移植
タイミング法や人工授精でも妊娠できなかった場合は、ART(Assisted Reproductive Technology)と呼ばれる高度生殖医療を受けていただきます。
ARTとは、以下の流れをたどる治療全般を主に指します。
- 排卵誘発を行って卵巣を刺激する
- 卵巣内にある卵胞に針を刺して卵子を採取(採卵)する
- 体外受精または顕微授精で精子と受精させる
- 受精卵を培養液につけて3~5日発育させる
- 子宮内へ戻す(胚移植)
ここでは、採卵・受精・胚移植の3つのステップ別に説明いたします。
採卵
卵巣内にある卵胞の位置を超音波像で確認して、採卵針を刺します。
そして、卵胞液を抜き取ると卵子を採ることができます。
この一連の手技を「採卵」といいます。
採卵後は、受精方法をどうするか、移植か全胚凍結か、といった今後の治療方針を決めなければなりません。
そのため、採卵日にはいくつかご質問させていただきます。
ご質問事項の一部抜粋
- 受精方法の希望>①体外受精 ②顕微授精 ③院長におまかせ
- 移植方法の希望>①卵管内移植 ②子宮内移植 ③院長におまかせ
- 移植日の希望(基本的に採卵3日目から5日目までの間、採卵日は0日目と数える)
- 採卵終了後の帰宅先もしくは宿泊先
- 移植当日の当院までの所要時間
- 今後3週間以内に出張や旅行などの予定の有無
※実際の卵子や精子、受精卵の状態によって、ご希望とは異なる方法をお勧めする場合がありますので、あらかじめご了承ください。
受精 -体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)-
採卵した卵子を、ご主人の精子(当日採精した精子、もしくは凍結しておいた精子)と受精させます。
受精方法には、体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)と顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)があります。
(1)IVF
卵子と精子をシャーレの中で混ぜ合わせる「媒精」という方法です。
以下のような場合には、IVFの適応となります。
- 人工授精を5~6回しても妊娠しない
- 卵管が完全に詰まっている(卵管閉塞)
- 卵管が癒着し、剥離不可能(卵管周囲癒着)
- 抗精子抗体が陽性
- 高齢で不妊の原因がわからない(年齢やこれまでの治療結果によってはICSIとなる)
- 精子の数が少ない、または動きが悪い(軽度~中等度の乏精子症または精子無力症)
(2)ICSI
ピペットで 精子を1匹吸い上げて、顕微鏡下で卵子に刺して精子を注入します。
以下のような場合には、ICSIの適応となります。
- 重度の男性不妊(乏精子症、精子無力症、精子不動症)
- 奇形精子率が高い
- 体外受精を繰り返し行っても受精しない、または妊娠しない
- 卵子のグレードがよくない(透明帯が硬い、茶色っぽいなど)
※ICSIでは卵子に針を刺すことになりますが、染色体を傷つけることはありませんので、異常児の発生率は自然妊娠と変わりません。
流産率はやや高くなる傾向がみられます。
胚移植
胚移植は、採卵3~5日後に経膣的に子宮内へ移植する方法が一般的ですが、卵管内移植や凍結胚移植といった方法もあります。
ここでは、方法の違いに関わらず、胚移植における全般的なご説明をいたします。
(1)移植個数
多胎妊娠のリスクを回避するため、1回に移植する胚の数を制限することがあります。
学会のガイドラインでは、34歳未満の方は1個、35歳以上の方は2個までと決められております。
(2)胚移植のリスク
多胎妊娠…双子などを妊娠するケースです。
- 妊娠中毒症などの妊娠合併症のリスク発生率が、単胎妊娠より高くなります。
- 妊娠中期以降はより注意深く産科管理する必要があり、妊娠20週ぐらいで子宮の入り口を縛る(シロッカー)手術、妊娠30週ぐらいで早期入院が勧められます。
- 出産方法は、帝王切開になることが多いです。
子宮外妊娠…子宮内に移植した胚が卵管内や子宮頚管内、腹腔内に移動してしまい、子宮以外の場所で着床することです。
- およそ98%は卵管に妊娠します。卵管妊娠は卵巣や卵管が破裂して大量出血してしまう恐れがあるため、卵管ごと摘除して対処することがあります。
- 妊娠反応は陽性にもかかわらず、経膣超音波検査で子宮内に胎嚢が認められない場合には、子宮外妊娠が疑われます。
- 日本産科婦人科学会の調査によると、自然妊娠よりARTの方が若干高い頻度で認められるとされています。
子宮内外同時妊娠…ごく稀に、複数個の胚を移植した場合に、それぞれが子宮内と子宮外に同時に着床することがあります。
- 子宮外妊娠と同様のリスクがあります。
- 子宮内外同時妊娠の早期診断はかなり難しいです。
(3)胚移植後について
移植後は約30分間安静にしていただきます。
麻酔は使用しませんので、安静時間にお食事をされても構いません。
食事をしたい方は、寝たままの体勢でも食べられるおにぎりやサンドイッチ、ストローつきのお飲物などをお持ちください。
帰宅後は、安静にされる必要はありません。
水泳や自転車、夫婦生活も問題ありませんので、普段通りの生活をお過ごしください。
移植日から約2週間後に妊娠判定を行います。
当院で検査を受けられない場合は、市販の検査薬をご使用ください。
治療法別の成績
日本産婦人科学会による統計結果(2012年)
移植周期数 | 妊娠周期数 | 生産分娩数 | 妊娠率 | 生産率 | |
---|---|---|---|---|---|
IVF ※1 | 29,693 | 6,703 | 4,566 | 22.6% | 15.4% |
ICSI ※2 | 40,829 | 7,947 | 5,299 | 19.5% | 13.0% |
凍結胚移植 ※3 | 116,176 | 39,106 | 26,639 | 33.7% | 22.9% |
※1:IVFはGIFTを含む
※2:ICSIとIVFを同時施行した場合は「ICSI」に分類する
※3:凍結胚移植は未受精卵融解を含む
当院の治療成績でも同様の結果である通り、凍結胚移植が最も有効な治療法です。
そのため、当院ではできる限り胚を凍結するよう努めております。
※胚の凍結・融解時には、胚の一部に退行変性が起きてしまうことがあり、そうなると移植できなくなります。
退行変性が発生する確率は、胚のグレードが低いほど高くなるため、凍結胚はある程度良好なグレードでなければなりません。
つまり、「全ての胚は凍結した方が良い」というわけではなく、凍結に向かない胚は採卵周期の移植をお勧めいたします。