凍結胚移植
体外受精してできた 胚(受精卵)を凍結して移植する方法です。
採卵周期(排卵誘発を行った周期)は誘発剤の影響により「子宮が移植に適さない状態である」ことが多いです。
例えば、子宮内膜が薄かったり、卵巣が腫れていたりなどが認められます。
そこで、胚を一旦凍結すれば、短くても1か月は子宮を休ませることができます。
そのため、採卵周期移植に比べて凍結胚移植は、着床率は高くなり、流産率は低くなるのが一般的です。
※胚の凍結・融解時には、胚の一部に退行変性が起きてしまうことがあり、そうなると移植できなくなります。
退行変性が発生する確率は、胚のグレードが低いほど高くなるため、凍結胚はある程度良好なグレードでなければなりません。
つまり、「全ての胚は凍結した方が良い」というわけではなく、凍結に向かない胚は採卵周期の移植をお勧めいたします。
全胚凍結と余剰胚凍結
凍結には、すべての受精卵を凍結する「全胚凍結」と、移植後に余った胚を凍結する「余剰胚凍結」があります。
全胚凍結
採卵周期の移植が適切でないと判断された場合に行います。
例えば、「子宮内膜が薄くて着床する可能性が低い」、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症しており移植が危険な状態」などです。
その他にも、治療方針が最初から全胚凍結することが前提であることもあります。
余剰胚凍結
移植胚以外にも良好な胚がいくつかあり、廃棄するにはもったいないと判断された場合には、余剰胚凍結をお勧めします。
もし移植した分で妊娠・出産に至ることができて、凍結した胚を使うことがなかったとしても、第二子の治療を始める際には余剰胚凍結していた分から移植していくことができるので、排卵誘発や採卵の手間を省くことができます。
凍結胚移植の長所・短所
長所
- 採卵周期の移植と比較して妊娠率は高く、流産率は低い
- 1回の採卵で採れた卵子を複数回に分けて移植することができるので、採卵回数を抑えることができ負担軽減につながる
- 胚の移植個数をセーブできるため多胎妊娠を防止できる
短所
- 胚が凍結・融解することでダメージを受け、移植できなくなることがある
- 採卵後、移植まで1~2ヶ月待たなければならない
凍結胚の移植方法 -自然周期・ホルモン周期-
凍結胚を移植するタイミングは、いつでも良い訳ではなく、「排卵日に合わせる必要」があります。
そうすることで、排卵された卵子と同じ発育段階になります。
(例)受精後3日間培養してから凍結した胚を移植する場合、排卵が確認されてから3日後に融解する
そのため、凍結胚の移植方法は、排卵周期が規則的か、不規則かによって異なります。
自然周期移植:排卵周期が規則的
排卵予定日の約2日前より、尿中LHの測定と、経膣超音波での卵胞計測を行います。
詳細は、排卵日を予測・確認する方法をご覧ください。
排卵日が特定できれば、タイミングを合わせて融解した後に(必要に応じて培養してから)移植となります。
胚移植後、「子宮内膜が薄い」、「プロゲステロン(黄体ホルモン)の値が低い」場合は、ホルモン剤を処方いたします。
ホルモン周期移植:排卵周期が不規則
月経が不規則で排卵日が特定しづらい場合には、ホルモン剤を使用して「自然なホルモンの変化」を造って移植します。
ホルモン周期の造り方についてはカウフマン療法・ホルモン療法をご覧ください。
ホルモン周期移植は、子宮内膜の薄い方や、モニターの通院が困難な方にも行うことがあります。
未受精卵凍結について
採取した卵子を受精させずに凍結することを「未受精卵凍結」といいます。
未受精卵凍結は、すべての方が行うことのできる治療ではありません。
未受精卵凍結の適応
- 既婚者であり、お仕事の関係などで現在出産できないが、将来のために若い卵子を保存しておきたい
- 悪性腫瘍の治療(抗がん剤や放射線の治療)を受けるため、将来卵子が採れなくなる可能性がある
- 体外受精を予定していたが、採卵時にご主人の精子が採れなかった(射精不能・急に来院できなくなったなど)
治療成績
未受精卵凍結を融解した場合の蘇生率はおよそ80%で、融解後の受精率・分割率は50~60%です。
これは、凍結胚を用いた治療より明らかに低い値となります。
凍結に関する注意事項(保存期間・廃棄など)
- 凍結の単位は「1本」です。「本」とは、胚や精子をストローの中に入れて凍結するためで、ストローの中には複数の胚を入れることができます。
- 凍結の費用は、基本的に本数で換算いたします。
- 融解は1個ずつではなく1本ずつ行います。ご希望であれば融解後に再凍結することも可能ですが、胚にダメージを与える確率は高くなります。
- 1年ごとに更新の手続きおよび費用が発生します(凍結保存装置の維持費や液体窒素補充のため)。
- 凍結の期限日が近づきましても、当院からお知らせはいたしませんので、期限日はお忘れないようお願いいたします。
- 天災、事故、体外受精プログラムの中止などにより保存維持ができなくなった場合は、凍結保存を中止いたします。この場合の損失は当院では補償いたしかねますので、ご了承ください。
- ご夫婦が死別・離別された場合は、凍結胚を廃棄しなければなりません。これらの事情が生じた場合には、速やかに当院までご連絡くださいますよう、お願いいたします。