多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に対する新しい排卵誘発法

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について

2007年に日本産科婦人科学会が定義したPCOSの診断基準は、以下の3つを全て満たす場合です。
①月経異常
②多嚢胞卵巣
③血中男性ホルモンが高値、またはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常

PCOSとなる原因の半分は遺伝と言われておりますが、残りの半分は原因不明であり、その治療は大変困難なものであります。

若い女性の排卵障害の4~7%はPCOSが原因と言われ、その内の約半数は不妊症となります。
さらにこの不妊症の内の15~20%は、特殊な不妊治療(体外受精など)が必要になるのが現状です。

なぜPCOS症例に対する治療が困難となるのか、その問題点は2つあります。

PCOSの問題点

①卵巣過激症候群(OHSS)のリスク

通常の排卵障害があるため、排卵誘発剤の注射を打つと過剰に反応して卵が30~40個でき、卵巣が腫れてOHSSを高頻度に引き起こします。
この状態が悪化すると血栓症をつくり塞栓の原因となり、非常に重篤な合併症を起こすリスクがあります。
ただし現在では凍結の技術が進みましたので、その心配はほとんどございません。

②採卵数の割には卵子の質が低い

PCOSは卵の数は多く採れるものの、卵の質が低い傾向にあります。

以上の2点から、現在のPCOS症例に対する不妊治療は低刺激法で卵の数を減らしOHSSを起こさない治療が主流です。
他にもDrilling(卵巣表面焼灼法)、Coastingなどで卵胞の数を減らす方法、または未熟な小さな状態で採取し体外で培養するIVM法などが一般的に行われていますが、その臨床成績は他の正常卵巣機能群に比べると十分とは言えません。

そこで当院ではPCOSに対する新しい排卵誘発法を開始いたしました。

理想的な排卵誘発とは

①質の高い卵子を多数発育させる
②卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こさない
③排卵誘発後の卵巣機能に悪影響、後遺症を残さない

以上の3点を満たす排卵誘発法を目指して開発しております。

PCOSに対する新しい排卵誘発法

本法のキーポイントは、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール)を使う点です。
まずFSH150単位で排卵誘発法を開始、順調な卵胞の発育を確認後HMGに切り替え、主席卵胞が18mmになった時点よりGnRHアンタゴニストを連日投与します。
E2、LH、P値を測定しながらHMGを投与し主席卵胞が24mmになるまで卵胞の発育を待ちます。
この間E2の値が4000pg/mlを超えた場合にはレトロゾールを2.5mgを投与します。
高E2値だけでは血管の透過性の亢進は起こらないので、高E2値でトリガーを行い、OHSSの主要因である、VEGFの亢進をいかに抑えるかが最も重要となります。
主席卵胞が24mmとなった時点でトリガーであるGnRHアゴニスト(リュープロレリン酢酸塩)2mgを投与します。
採卵後体外受精または顕微授精後、発育した胚盤胞は全て凍結保存します。
また採卵後直ちにレトロゾール、カベルゴリン、GnRHアンタゴニストを5日間投与し、術後卵巣腫大、血液凝固能などの全身疾患を消退出血の発現までモニターを行っております。
採卵までにE2値を下げることおよび採卵後にレトロゾール、カベルゴリン、GnRHアンタゴニストを投与することにより黄体内の血管新生を抑え黄体を形成させないことが本法の基本的な戦略です。

本法を施行した症例で、明らかなOHSSは現在のところ認められておりません。写真(A~D)(A)はタイムラプスにおける9個の良好胚を示しています。
(B)は採卵前の左右の卵巣、20~30個の卵胞の発育が認められました。
(C)は採卵3日後の卵巣で右卵巣が56.2mm×26.8mm、左卵巣が58.0mm×27.6mm、cysticな嚢胞状の部分は少なくほとんどがsolidな状態です。
明らかな血管新生は認められませんでした。
(D)は消退出血2日後の卵巣、右卵巣が39.1mm×24.4mm、左卵巣が46.7mm×26.3mm、正常な卵巣の状態に戻っています。
腹水は全く認められず、OHSSは認められませんでした。

臨床成績

臨床成績

まとめ

E2値を採卵までに十分に下げつつ、卵胞を十分に発育させることで、当院が開発を行ったPCOSに対する新しい排卵誘発法では良好な成績が得られています。
E2値を下げることでOHSSを防ぎ、またそれと同様の効果が期待できる採卵後から5日間のレトロゾール、カベルゴリン、GnRHアンタゴニストの投与も行います。
この方法により現在のところ凍結胚盤胞は平均5.44個、採卵1回あたりの累積妊娠率は73.7%であり、未だ妊娠に至っていない4症例には多くの凍結胚が残っており、これを用いて妊娠すれば、採卵1回あたりの妊娠率は最大で82.3%となることが予測されます。
この点より経済的、肉体的、精神的負担の軽減はPCOSの治療にとって新しい方向性を示しているのではないでしょうか。

しかしながら、多数の卵胞を発育させること自体は、やはりリスクを誘発する可能性が非常に高いという点は避けなければいけません。
当院では引き続き、よりリスクの少ないPCOSに対する新しい排卵誘発法の開発を進めております。

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