無精子症には閉塞性と非閉塞性の2通りがありますが、患者様ではご自身がどちらに該当するかは分からないと思います。簡単に見分ける方法として、睾丸の大きさがほぼ正常の場合には閉塞性のことが多く、非閉塞性の場合にはだいたいが睾丸の大きさが通常の1/3~1/2以下で、正常な睾丸よりも柔らかくなっていることが挙げられます。
さらに正確に区別するにはFSHという脳から出るホルモンの値を調べれば、ほぼ100%診断することができます。FSHは脳から精巣に精子を作れという指令を出すホルモンです。このホルモン値が10以上の場合には、精巣で正常な精子を作っていないため、さらに強い指示をするため分泌量が増え、その結果FSH値は10以上となってしまいます。
睾丸の大きさが正常でFSHの値が正常値の場合にはまず閉塞性と思っていいでしょう。閉塞性の場合には精巣上体より精子を採るMESAが精巣内精子を採るMD-TESEよりも明らかに良好な精子をたくさん採れ、簡単に10~20回分が凍結できますので睾丸には一切メスを入れずに済みます。精巣内精子よりも精子の質・量ともに優れており、その結果臨床の成績も当然上がります。
非閉塞性無精子症で精子が見つかる確率は各施設で異なるようですが、おおよそ20~30%と言われています。しかしこの中には一見精子のように見えて、実は精子ではない「お化け精子」と呼ばれている尻尾の生えた細胞も含まれております。このお化け精子は精子ではないので女性にも見つかります。また、精子でも動いていない不動精子または頭部奇形の精子の場合には受精後の胚の発育は極端に落ち妊娠に至ること極端に低くなります。そのためこのような場合には精子細胞を用いた治療が有用となります。精子細胞は精子と同じ遺伝能力のある細胞ですので妊娠は可能です。ただし尻尾がありませんので自然妊娠は望めません。この精子細胞を用いて正常な処理を行なえば、精子を用いた場合の約半分の確率で出産に至ることが可能です。
例え精子が見つからなくても精子細胞がいれば妊娠は可能だということをよくご理解下さい。精子がいないからと言って諦めないことが重要です。さらにこの精子細胞は1回目の手術で処理した場合の方が明らかに成績は良くなります。2回目以降の手術の場合にはどうしても以前の手術により組織にダメージが残り良い細胞が見つからないからです。ですから精巣生検MD-TESEは1回目が一番大事だということをご理解ください。特に非閉塞性無精子症の中でもクラインフェルター症候群の場合には最も精子又は精子細胞が見つかる確率が高くなります。ただし精巣自体が極端に小さいため、ほとんど1回しか手術ができません。1回目が成功率の最も高くなる精子細胞がたくさん採れるということを念頭に置いて治療に入って下さい。