
体外受精の成功率は、良好な胚と同時に十分な厚さの内膜が必要です。内膜が10mm以上ある場合の着床率と、6〜7mmの内膜での着床率では約3倍の差があります。この内膜が厚くなるか厚くならないかは、人によってかなりの差があるようです。どのような方法を用いても厚くならない方はおられます。又、内膜を厚くすると言われている種々のホルモン剤・飲み薬・注射がありますが意外と効果はありません。
内膜を厚くしたい場合には、「注射やスプレキュアを使った排卵周期には胚を戻さずに、凍結して自然周期に戻す方法」が一番効果的です。
しかし、自然周期でも内膜が厚くならない場合には、それ程、着床率は高くなりません。その場合には、「長期培養して胎盤胞に発育した後に透明帯を除去する方法」をおすすめしております。これは、採卵後5日間(凍結胚は融解して3日間)培養し、32〜64細胞となった胚盤胞のまわりを囲んでいる透明帯という殻を全部とり除いて移植する方法です。32〜64細胞の時期になりますと、将来、赤ちゃんになる部分(内細胞塊)は細胞の真ん中に位置し、その外側には将来胎盤となる細胞がとり囲んできますので、透明帯を除去しても内細胞塊は直接外界と接しませんのでダメージはありません。さらに、内膜との接着力が強くなりますので内膜がうすくても着床率(妊娠率)は高くなるというしくみです。詳しい説明は来院時にいたしますので、遠慮なくお申し出下さい。
(スプレキュア)
良好な胚が出来るためには、良質な卵が取れなければなりません。卵の質は排卵誘発方法で決まります。排卵誘発方法は、スプレキュア・HMG・フェルティノーム・セロフェンなどの組み合わせにより、約10通りあります。どの方法が一番いいかは個人差がありますから、実際にやってみないとわかりません。1つ1つ結果を吟味しながら、患者様にとって最良の排卵誘発を見つけることが重要です。
図1は卵の質を示したもので、左より右に向かって卵の質が下がっています。良い卵はつきたての餅のように見えます。
妊娠率は良好な分割卵の数が多いほど高くなります。(残った卵は、次周期や2人目のために凍結保存できます。)図2のグラフは年齢層別にみた卵子の成熟度の率を示しています。G1が成熟度の良い卵、G2が普通、G3が悪い、Degは成熟しない卵となります。グラフより、高齢になるにしたがって質の良い卵は少なくなります。質の良い卵が少なくなると妊娠率も低くなります。
良い卵ができなければ違う方法を試してみます。子宮内膜症・体質・加齢などで、どうしても良い卵ができない場合には、卵子提供や卵子の若返りなどの方法もあります。
図5は卵の若返り法の様子を示しています。卵の若返り法は、提供者の成熟した卵子の核を取り出し、残った細胞質の中に本人の核を入れかえる方法です。
動物ではこのテクニックの再現性が報告されていますが、ヒトではまだ成功の報告例はありません。日本では卵子提供がまだ認められておりませんので、実際には行うことができません。[2006年5月現在]
スプレキュアよりも、更に作用が強力なGnRHアンタゴニストという薬が開発され使用されております(図4)。
この薬を使うことにより、血中のホルモンLHの発生をほぼ100%抑えることができるので、良質な卵がとれるようになりました。残念ながら、この方法でも100%良い結果が出るわけではなく、かえって結果が悪いということもあります。しかし、今まで良い卵が取れなかった方(特に卵がたくさんできる方)はアンタゴニストを試してみるか価値はあると思います。
やり方は、月経周期3日目よりHMGを開始します。卵胞の大きさが14〜16mmになった時点より、GnRHアンタゴニストを注射します。そして、卵胞径の大きさが18〜20mmの時点でHCGに切り替え、2日後採卵します。費用は、2〜3万円とスプレキュアより高くなります。
質の高い卵子が10個前後できる方法がベストな排卵誘発法であるといえます。それは、採卵周期で2個移植し、残りの卵を凍結保存できるからです。凍結をすると、1回の採卵あたりの妊娠率は明らかに高くなりますし、採卵の回数が減るため、身体的な負担も軽減します。また、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の副作用も、この程度の数であれば、まず心配はいりません。このような理想的な排卵誘発法を行う前に、まず卵巣の機能を準備しておくために、各個人別(年齢や卵胞数に応じて)にピルを服用していただいております。
治療開始周期の20日前より、ドオルトン(プラノバール中容量ピル)1錠を1週間服用(年齢や卵胞数に応じて、10日目より2週間服用、または3日目より3週間服用など変動します)し、月経開始後は、GnRHアゴニストのShort法またはGnRHアンタゴニスト法をおすすめしております。
漢方薬には様々な種類があります。当院では今までの画一的な投与方法ではなく、おひとりおひとりにあった(年齢・卵の出来具合・体質)漢方を処方しております。漢方も薬ですので、安易な気持ちで服用せず、目的を持って服用してください。
排卵誘発後に発育する卵胞数が少なく、採取された卵子の質が低い症例をLow responder(Low quality)症例といいます。残念ながら、このような症例は、アンタゴニスト・大量HMG投与・胚盤胞移植・凍結胚移植などの各種治療法を用いても成功率は非常に低くなります。
しかし、37歳以上で採卵数が2〜4個、体外受精に数回失敗をしている方であっても、少なくとも一側の卵管に疎通性があり採卵時の子宮内膜厚が8mm以上であれば、卵管内に卵子(胚)を戻す卵管内移植法が有効です。
この治療法では、卵子採卵後に6〜8時間の追加培養をおこないます。(採卵後、核および細胞質の成熟度を判定した結果、未成熟であった場合には12時間の追加培養になります。)その後、顕微授精(ICSI)をおこない、卵子数が2〜3個の場合はGIFT法、3〜4個の場合はZIFT法で戻します。
現在のところ、GIFTでは30.8%(69/224)、ZIFTでは30.3%(197/651)の妊娠率がみとめられています[2006年5月現在]。この治療法の場合、排卵誘発法や子宮内膜厚は妊娠率にあまり影響しないことがわかっています。
必ずできると言われても、体外受精で妊娠しないことはよくあることです。着床に問題があるケースが多くみとめられます。このような場合は、まず、採卵周期には戻さないで全胚凍結し、自然周期に戻すことが第一の方法だと考えます。それでも妊娠しない場合には、この凍結した胚を長期培養して胚盤胞で戻し、なおかつ、透明帯をはずすという方法がベストだと考えます。
卵管水腫(右図)がある場合には、子宮と卵管の間を切除し、卵管水腫内の内容液が子宮内へ移動できないようにします。さらに水腫切除を大きく切開して内容液を排出します。
HMGやスプレキュアなどの薬を使った、採卵周期後かなりの内膜はダメージを受けます。当院では原則として、採卵周期に胚移植をしないで凍結保存し、自然周期に融解して戻しております。その方が間違いなく妊娠率は高くなるばかりでなく流産率が下がります。ただし、胚の凍結の技術が完璧でなければ大事な胚がダメになってしまうこともあります。自然で排卵がおこらない方には、クロミッドを投与します。クロミッドでも排卵しない場合は、ホルモン剤(プレマリン・ヒスロンという2つの薬)で内膜を作って戻すことも可能です。
図1の横軸は内膜の厚さ、縦軸は妊娠率を示しています。内膜が薄いと妊娠率が極端に下がることがわかります。
最近、体外で胚を長期間培養して胚盤胞にまで発育していくという新しい培養液が開発されました。その結果、着床率が明らかに上昇しました。ただし、この長期培養は全ての卵が対象になるとは限らず、多くて半分ぐらいの卵しか胚盤胞にまで到達できません。卵の数が少ない方では、なかなか胚盤胞にならないということもよくあります。
図2は自然の妊娠のメカニズムです。卵管の中で出会った精子を卵子が受精し、分割を繰り返し、胚盤胞の状態で着床するといわれております。
ですから、胚盤胞にまで培養し(長期培養)子宮に移植する意義はここにあるのです。
(図3)胚の分割のステージによって培養液の量や種類をかえて育てていきます。(図4)長期に培養するためには患者さん専用の培養機が数多く必要となります。
図5はヒト体外受精した胚の発生過程です。左上段より、受精卵・2細胞・4胞・8細胞・桑実期胚・初期胚盤胞・後期胚盤胞・拡張胚盤胞です。
内膜が薄い場合には、卵の一番外にある透明帯の殻を取り除くことで着床率は上がります。
胚盤胞になると将来、胎児になる部分(内細胞塊)は将来の胎盤の栄養芽細胞によってとり囲まれます。ですからこの透明帯を溶かして、除去しても胎児になる部分は周囲から守られており、安全なのです。
ハッチングとは卵からひよこになることを意味します。アシスティッド・ハッチング(Assisted hatching)は、ハッチングを助けるということになります。ひよこが生まれてくる為には、自分のくちばしで卵のカラをつき破って出てこなければいけません。もし、卵のカラが固かったり、厚くなったりして破れない場合、ひよこは誕生できません。同じ様なことが人間の卵(胚)についてもいえます。
分割の状態は良好で子宮の内膜も10mm以上、なおかつ移植も円滑にできるのに妊娠しない場合には卵のカラから外へ脱出できないことが十分考えられます。このような場合、子宮に移植する前に卵のカラに溝(スリット)を顕微鏡下で加えますと胚が透明帯より脱出しやすくなり、着床率(妊娠率)は明らかに高くなります。
女性の年齢が高くなるに従って、卵のカラは固く厚くなり着床率が低下すると考えられます。ですから、このAH法は高齢者(35才以上)の方で、普通の体外受精でいい結果が出ない場合には、効果的となります。
当院では225回のAHを行い、そのうち72回で妊娠に至りました。妊娠率は32.8%です。今まで何度も“妊娠できます”といわれながら妊娠できなかった方の約30%が一回のAHで妊娠できたということは驚くべき成果といえます。この225回のAHを受けた方の年齢別の妊娠率を調べてみますと、 34歳以下で妊娠率40.0%(20症例)・35〜39歳で妊娠率40.7%(54症例)・40歳以上で娠率27.8%(151症例)となっており、40歳代の方でも約28%が妊娠できることがわかっております。
4細胞を把持ピペットで固定し、1度方向より細いガラスピペットを挿入し、串刺しにします。この部分を把持ピペットの間でこすってスリットを作ります。右端写真では、このスリットより胚盤胞が脱出しているのが確認できます。
良好の胚、良好な内膜が揃っていても、うまくその胚を子宮の中に移植出来なければ妊娠には至りません。即ち、胚移植の技術は非常に重要であるといえます。
約80%の方の子宮頚管は真直ぐなので移植はスムーズに終了しますが、残りの20%の方はこの頚管が曲がっており、チューブを容易に入れることが出来ません。そのような場合には、特殊なチューブを用いて移植します。この特殊チューブでも入らない場合には、子宮の壁を通して経筋層的に針を刺し、子宮腔内に到達させる方法ありますが、妊娠率は経管法よりも落ちるのは仕方がありません。子宮筋腫・子宮内膜症があって埋め込みも出来ないような場合には、当院では卵管に入れるようにしております。
胚移植チューブです。(一番下が普通に用いる柔らかいチューブ、上の2本が特殊チューブです。)ほとんどの場合は普通のチューブと特殊チューブで胚移植が可能です。特殊チューブでも円滑に入らない場合には、無理に挿入せず、経子宮筋層的に子宮腔内に、より円滑に移植する方法を当院で開発しています。
チューブが子宮内腔の狭いスペースに垂直に入らなければならず、かなり技術的に困難を伴います。
チューブが斜めに入ってきますので、子宮内腔に入りやすくなります。ベストな部位に移植するために、経腹超音波を見ながらチューブの位置を確認します。






