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第11話   あきらめられない

久しぶりに、和彦の親戚に会った。法事のため、お寺に集まったのだ。お義姉さんが、私に近づいてささやいた。
「手術の結果、聞いたよ」
私は小さく頷いた。和彦が、手術を拒んでいることなど、とても言えなかった。私は、和彦の家族に、とても感謝していた。不妊を抱える人の中には、家族の理解が得られず、治療に踏み切れない人もいるのだ。「そんなことしてまで」などと言われたりする。しかし、和彦の家族は、反対はおろか、偏見さえ口にしなかった。治療に対しても前向きだった。それは、私にとってベストの状態と言ってよかった。これ以上、心配を掛けたくなかった。
お寺を出て、皆で食事をしている時、お義姉さんの二人の子供が話題になった。一年生のお姉ちゃんと、二歳になったばかりの弟が食事をする姿は、何ともほほえましい。
「私の孫、今月で3歳になってね」
誰かが孫の話題を出すと、「うちも」「僕のとこも」と、話は尽きない。皆気を使ってくれているのだろうか。私たちに子どもの事を聞く人はいない。
お酒がだいぶ回ってきた様子のおじさんが、子どもたちを前に、感慨深げに言った。
「しかし、あれやなぁ。小さい子どもを必死になって育ててた頃が、人生の中で、一番充実しとったなぁ」
それは、60年程生きてきた人の、心からの、「人生」に対する感想に思えた。法事、というシチュエーションが、その言葉に重みを与えていた。
(そんなものなんだろうな。人生って)
寂しさが、波のようにどっと私に押し寄せた。心の奥から、じわりと上がってくるものがある。やがてそれは一つの形となる。
「アキ・・ラメ、ラレナイ・・・」
こだまして大きくなるその言葉を、私は必死に押さえ続けた。
とにかく、彼の気持ちを確かめてみるのだ。あれから話を避けてきたが、このままでは、何がなんだかわからない。彼と向かい合わなくては。家で夕飯を終え、ソファにごろ寝する和彦に、私は再び手術の話を切り出した。きちんと正座して。
「あのさ、手術のことけど、今すぐでなくてもいいから、考えてみてくれん?」
姿勢を変えず、和彦は言った。
「お前さ、今度やったら、絶対有るて思てんの?」
「手術せんかったら子どもは出来ないよ」
私の口から、すでに用意してあった言葉がするりと出た。それは彼にスイッチを入れたのだろうか。和彦はゆっくりと振り返った。その目つきは鋭く、私はタイミングをまた間違ってしまったことを知った。
「俺はあの手術がすごいストレスになってんねん!手術中に、『管が通ってる』て聞いて、なんかもう頭が真っ白になった。痛みも半端やなかった。そして結果がまた、『一匹もない』や。俺はあれから金縛りにもあう。もうイヤやねん!とにかくイヤやねん!もうその話は止めてくれ!」
それから、何を言っても、和彦は口を聞かなかった。ショックだった。わからなかった。「じゃあ」と言いかけたものの、もう私に言葉を続ける力はなかった。がっくりと膝を崩し、虚しく自分に問う。
「じゃあこのまま時が流れるのをただ待てと?私はどんどん年をとっていく。そして私の卵子も年を取って悪くなっていくのよ!一体どうしたらいいというの?」

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