
無精子症治療
「0の行方」
第2話 精子が見当たらない!?
第3話 0(ゼロ)から生み出す魔法
第4話 何も変わらない
第5話 何で、俺やねんやろ
第7話 睾丸内に精子がいる!?
第9話 子どもがいない国にいきたい
第10話 俺、手術、せん
第11話 あきらめられない
第12話 0(ゼロ)が頭から離れない
第13話 温かい父の厳しい言葉
第14話 逃げているのは私だ
第15話 俺、手術、するわ
第16話 セントマザーとの出会い
第17話 俺、受精してん!受精してん!
最終話 これがお前のパパやで!
久しぶりに、和彦の親戚に会った。法事のため、お寺に集まったのだ。お義姉さんが、私に近づいてささやいた。
「手術の結果、聞いたよ」
私は小さく頷いた。和彦が、手術を拒んでいることなど、とても言えなかった。私は、和彦の家族に、とても感謝していた。不妊を抱える人の中には、家族の理解が得られず、治療に踏み切れない人もいるのだ。「そんなことしてまで」などと言われたりする。しかし、和彦の家族は、反対はおろか、偏見さえ口にしなかった。治療に対しても前向きだった。それは、私にとってベストの状態と言ってよかった。これ以上、心配を掛けたくなかった。
お寺を出て、皆で食事をしている時、お義姉さんの二人の子供が話題になった。一年生のお姉ちゃんと、二歳になったばかりの弟が食事をする姿は、何ともほほえましい。
「私の孫、今月で3歳になってね」
誰かが孫の話題を出すと、「うちも」「僕のとこも」と、話は尽きない。皆気を使ってくれているのだろうか。私たちに子どもの事を聞く人はいない。
お酒がだいぶ回ってきた様子のおじさんが、子どもたちを前に、感慨深げに言った。
「しかし、あれやなぁ。小さい子どもを必死になって育ててた頃が、人生の中で、一番充実しとったなぁ」
それは、60年程生きてきた人の、心からの、「人生」に対する感想に思えた。法事、というシチュエーションが、その言葉に重みを与えていた。
(そんなものなんだろうな。人生って)
寂しさが、波のようにどっと私に押し寄せた。心の奥から、じわりと上がってくるものがある。やがてそれは一つの形となる。
「アキ・・ラメ、ラレナイ・・・」
こだまして大きくなるその言葉を、私は必死に押さえ続けた。
とにかく、彼の気持ちを確かめてみるのだ。あれから話を避けてきたが、このままでは、何がなんだかわからない。彼と向かい合わなくては。家で夕飯を終え、ソファにごろ寝する和彦に、私は再び手術の話を切り出した。きちんと正座して。
「あのさ、手術のことけど、今すぐでなくてもいいから、考えてみてくれん?」
姿勢を変えず、和彦は言った。
「お前さ、今度やったら、絶対有るて思てんの?」
「手術せんかったら子どもは出来ないよ」
私の口から、すでに用意してあった言葉がするりと出た。それは彼にスイッチを入れたのだろうか。和彦はゆっくりと振り返った。その目つきは鋭く、私はタイミングをまた間違ってしまったことを知った。
「俺はあの手術がすごいストレスになってんねん!手術中に、『管が通ってる』て聞いて、なんかもう頭が真っ白になった。痛みも半端やなかった。そして結果がまた、『一匹もない』や。俺はあれから金縛りにもあう。もうイヤやねん!とにかくイヤやねん!もうその話は止めてくれ!」
それから、何を言っても、和彦は口を聞かなかった。ショックだった。わからなかった。「じゃあ」と言いかけたものの、もう私に言葉を続ける力はなかった。がっくりと膝を崩し、虚しく自分に問う。
「じゃあこのまま時が流れるのをただ待てと?私はどんどん年をとっていく。そして私の卵子も年を取って悪くなっていくのよ!一体どうしたらいいというの?」






