
無精子症治療
「0の行方」
第2話 精子が見当たらない!?
第3話 0(ゼロ)から生み出す魔法
第4話 何も変わらない
第5話 何で、俺やねんやろ
第7話 睾丸内に精子がいる!?
第9話 子どもがいない国にいきたい
第10話 俺、手術、せん
第11話 あきらめられない
第12話 0(ゼロ)が頭から離れない
第13話 温かい父の厳しい言葉
第14話 逃げているのは私だ
第15話 俺、手術、するわ
第16話 セントマザーとの出会い
第17話 俺、受精してん!受精してん!
最終話 これがお前のパパやで!
「もしかして、和彦に、何か?」
少し前から、私の中で生まれていた疑問。生理がきた時点で、私は和彦に精液検査を受けるよう、必死になって頼んだ。
土曜の朝、専用のカップに「採れたて」を入れ、A病院へと車を走らせた。しぶしぶ了承したものの、和彦はずっと口を聞かない。私も緊張していた。時間がかかる女性の検査と違い、男性の検査は、精子を見れば一目瞭然なのだ。「数が少ない」とか、「運動率が悪い」などと言われるかもしれない。女性誌の不妊特集に書いてあったことを思い出す。カップを産婦人科へ届けると、私は待合室のソファに腰掛けた。和彦は隣の小児科へ座り、持ってきた新聞を大きくバサリと広げ、読み始めた。不機嫌だった。
「小野田さん、今朝、九時に採ったんですね?」
渡す時言ったのに、と思いながら「はい」と答えた。さらに十分ほど経って、ようやく名前を呼ばれ、いつもは一人で入る診察室に、和彦と二人で入った。はじめて見る医師だった。手持ち無沙汰なのか、不妊治療患者の資料らしきものを、パラパラとめくりながら、座るよう促した。そして、開口一番、告げたのだった。
「実は、精子がね、見当たらなかったんです」
・・は?ミアタラ・・・ナイ?
一瞬、言葉の意味が、わからなかった。
(確か今、見当たらなかったって言われたような・・・)
胸の動悸が激しくなっていくのが、はっきりと感じられた。息が苦しくなる。聞かなくては。この人は、今、何と言ったのだ?
「それって、無いってことなんですか?」
やっと口を突いて出た言葉は、恐ろしさのあまり、詰め寄るような口調になっていた。
和彦は、医師の顔をしっかりと見つめ、平静を装っていたように思う。その後の説明を、私は良く覚えていない。確か、「もう一、二回調べましょう」とか、「次から泌尿器科へ行って」「この分野は今とても進んでいて・・・」などと言われているようだった。頭の中が、文字通り、真っ白になっていた。一時的に、耳が遠くなったような感覚があった。
(何かの間違いじゃないの?ホントに私たちなの?人違いじゃないの?)
「小野田さん」と声をかけられ、私のわずかな望みも消えていく。和彦は、放心している私の代わりに医師と会話を続けていた。
「そんな、そんなことって・・・」
私は、そうつぶやくと、ワッと泣き出した。看護師達が下を向いている。他人の目も、診察室の薄い壁も、もうどうでもよかった。医師は、「奥さん、そんなに泣かなくても」と言ったきり、口をつぐんだ。
そして、資料の中の、表のようなものに、「0(ゼロ)」と記入した。
呆然としたまま、和彦に引っ張られるようにして診察室を出た。膝に力が入らず、うまく歩けない。ふと心の奥から何かが湧き上がってきた。「原因が分かったのなら、何とかなる」という楽観だった。が、次の瞬間、それは怒りと虚しさに変わった。
ある程度のことを言われても、がんばっていこう、などと心に決めていたのに。まさか、精子が無いと言われるとは。完全に、私の想像の範囲を越えていた。
(ワタシタチニハコドモガデキナイ)
わからない。理解できない。もちろん納得など出来ない。思考回路は、完全に止まっていた。






