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第2話   精子が見当たらない!?

「もしかして、和彦に、何か?」
少し前から、私の中で生まれていた疑問。生理がきた時点で、私は和彦に精液検査を受けるよう、必死になって頼んだ。
土曜の朝、専用のカップに「採れたて」を入れ、A病院へと車を走らせた。しぶしぶ了承したものの、和彦はずっと口を聞かない。私も緊張していた。時間がかかる女性の検査と違い、男性の検査は、精子を見れば一目瞭然なのだ。「数が少ない」とか、「運動率が悪い」などと言われるかもしれない。女性誌の不妊特集に書いてあったことを思い出す。カップを産婦人科へ届けると、私は待合室のソファに腰掛けた。和彦は隣の小児科へ座り、持ってきた新聞を大きくバサリと広げ、読み始めた。不機嫌だった。
「小野田さん、今朝、九時に採ったんですね?」
渡す時言ったのに、と思いながら「はい」と答えた。さらに十分ほど経って、ようやく名前を呼ばれ、いつもは一人で入る診察室に、和彦と二人で入った。はじめて見る医師だった。手持ち無沙汰なのか、不妊治療患者の資料らしきものを、パラパラとめくりながら、座るよう促した。そして、開口一番、告げたのだった。 「実は、精子がね、見当たらなかったんです」
・・は?ミアタラ・・・ナイ?
一瞬、言葉の意味が、わからなかった。
(確か今、見当たらなかったって言われたような・・・)
胸の動悸が激しくなっていくのが、はっきりと感じられた。息が苦しくなる。聞かなくては。この人は、今、何と言ったのだ?
「それって、無いってことなんですか?」
やっと口を突いて出た言葉は、恐ろしさのあまり、詰め寄るような口調になっていた。 和彦は、医師の顔をしっかりと見つめ、平静を装っていたように思う。その後の説明を、私は良く覚えていない。確か、「もう一、二回調べましょう」とか、「次から泌尿器科へ行って」「この分野は今とても進んでいて・・・」などと言われているようだった。頭の中が、文字通り、真っ白になっていた。一時的に、耳が遠くなったような感覚があった。
(何かの間違いじゃないの?ホントに私たちなの?人違いじゃないの?)
「小野田さん」と声をかけられ、私のわずかな望みも消えていく。和彦は、放心している私の代わりに医師と会話を続けていた。
「そんな、そんなことって・・・」
私は、そうつぶやくと、ワッと泣き出した。看護師達が下を向いている。他人の目も、診察室の薄い壁も、もうどうでもよかった。医師は、「奥さん、そんなに泣かなくても」と言ったきり、口をつぐんだ。
そして、資料の中の、表のようなものに、「0(ゼロ)」と記入した。
呆然としたまま、和彦に引っ張られるようにして診察室を出た。膝に力が入らず、うまく歩けない。ふと心の奥から何かが湧き上がってきた。「原因が分かったのなら、何とかなる」という楽観だった。が、次の瞬間、それは怒りと虚しさに変わった。
ある程度のことを言われても、がんばっていこう、などと心に決めていたのに。まさか、精子が無いと言われるとは。完全に、私の想像の範囲を越えていた。
(ワタシタチニハコドモガデキナイ)
わからない。理解できない。もちろん納得など出来ない。思考回路は、完全に止まっていた。

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