
「雲の向こうに・・・」
第1話 出版までの軌跡
第2話
私達は子供を欲しかった
第3話 「子供はまだ?」
第4話 友人・知人のおめでた
第5話 決断
第6話 体外受精
第7話 最後の戦い
第8話 双子
第9話 奇跡
第10話 試練
第11話 消えぬ悲しみ
第12話 夫婦
第13話 かけがえのない経験
第14話 主人の本音
最終話
最後に 読者の皆様へ
周囲は、結婚すると当たり前のように子供を要求してきます。
私達夫婦の場合も例外ではありませんでした。
街で知人の年配の方に出会う度、行事で人が集まる度、「子供はまだ?」という言葉を投げかけられてきました。
結婚して3年ぐらいまでは、冗談混じりでその言葉をかわすことができました。
しかし月日が流れ、子供がなかなかできない事を真剣に悩むようになった時、冗談でかわすことに対し、虚しさと苦痛を覚えるようになっていました。
特に不妊治療中、その言葉は私の神経を逆なでするものでしかありませんでした。
飲み会の席で酔った年配の男性に、
「お前達は子供の作り方も知らないんだろう。俺が作り方を教えてやろうか?」と笑いながら言われた事も、幾度となくありました。
必死に笑顔で取り繕い、冗談でかわそうとしても、しつこくしつこく子供を作らない理由を聞かれました。その時は、本当にその場を逃げ出したくてたまりませんでした。正直、その人に対し、心の奥から憎しみさえ湧いてきました。
「子供を早く作りたいけどできないんです!」
何度その反論の言葉を言おうとしたか分かりません。しかし、どうしても言えませんでした。
笑顔の仮面をかぶり、「子供はまだいいですよ」などと言ってごまかし続けていました。
私は、不妊症である事や不妊治療の事をあれこれ語りたくはありませんでした。それに、「子供ができない」という事実を知られたら、私はいずれここにいられなくなるのでは・・。そんな不安も少なからず抱いていました。
私の心をこれ以上傷つけないで!
お願いだから、子供の事や不妊治療の事に触れないで!
私は心の中で乾いた叫びを繰り返し、他人の一言一句に過敏な反応を起こすようになっていました。
挙句、追い詰められた私は周囲に対し、いつしか心を閉ざさざるを得ない状況に陥っていました。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に、自分の心情や不妊治療の事を誰かに分かって欲しい。そんな拮抗する思いもありました。
誰か私の話を聞いて!
薬の副作用で私の体はガタガタ。
毎回期待しては落胆の繰り返し・・。
いつまでこんな思いをしなくてはならないの?
私はもう疲れ果てた・・。
でも、体外受精をしなければ子供ができない・・。
体外受精をやめることは子供を諦めること。
そんな事は絶対に嫌だ。
子供が欲しい。私達の子供が・・。
私の心は、自分の気持ちを吐き出せる相手を捜し求めていました。
しかし、私の周囲に体外受精はもちろん、不妊治療を経験した人は誰一人いませんでした。
経験の無い人に私の気持ちを分かってもらえるはずもなく、私は一人もがき苦しんでいました。
当時、主人がどのような気持ちでいたのか私には分かりませんが、できる限り私のそばに寄り添ってくれていました。
会社の上司に事情を説明の上、仕事のやりくりをつけ、病院への送迎や付き添いなど、当たり前のように行ってくれました。
優しい言葉や労いの言葉は一つもありませんでしたが、今になって考えてみるとそれらの行動は主人なりの優しさと愛情の表れだったのでしょう。きっと辛さもあったと思います。しかし、そういった事を私に微塵も感じさせず、いつも通りの主人でいてくれました。
しかし、当時の私はそんな主人に感謝することもなく、むしろ、何の言葉もかけてくれないことに対し不満を感じていました。
誰も私の辛さを分かってくれない。
主人だって所詮は男。
女である私の気持ちなんて分かるはずがない。
不妊治療経験のない主人にこの苦しみが分かる訳もない。
だから労いの言葉の一つもかけてくれないんだ。
これが、私の正直な気持ちでした。






