
「雲の向こうに・・・」
第1話 出版までの軌跡
第2話
私達は子供を欲しかった
第3話 「子供はまだ?」
第4話 友人・知人のおめでた
第5話 決断
第6話 体外受精
第7話 最後の戦い
第8話 双子
第9話 奇跡
第10話 試練
第11話 消えぬ悲しみ
第12話 夫婦
第13話 かけがえのない経験
第14話 主人の本音
最終話
最後に 読者の皆様へ
私達夫婦は、学生の頃から付き合いを始め、卒業後二年の遠距離恋愛の末結婚に至りました。
結婚直後から、私達は子供を欲しいと思いました。それまでの付き合いが長かったせいか、夫婦二人だけの生活にそれほど拘りはありませんでした。
それよりも、子供のいる生活に憧れました。
子供連れの夫婦を街で見かけると、羨望の眼差しで眺めていました。
結婚当初の私達夫婦の会話の中で一番楽しかったテーマは、「子供ができたら・・」でした。そのテーマには夢が溢れ、夫婦で楽しく語り合ったものでした。当時の私達は、そのテーマは簡単に実現できるものと信じて疑うことはありませんでした。
主人は大変子供が好きです。
子供を見かけると、童心に戻り同レベルになって子供と戯れます。
そんな様子を見ていると、こちらまで温かい気持ちになり、私は微笑ましく眺めていたものです。
主人ほどではありませんが、私も元来子供と接することが好きでした。
子供の頃私は、幼い従妹達を毎日のように連れまわしたり保育園へ遊びに行ったり・・。とにかく幼い子供と接することが大好きでした。
学生時代は家庭教師のアルバイト、そして就職は塾の講師を選択し、公私共に一生子供に関わり続けていきたいと願っていました。
私達はそんな夫婦でしたが、結婚当初の、子供を早く作りたいという望みをなかなか叶えることができませんでした。
子供ができぬまま三年の月日が流れ、不安になった私は、近くの小さな産婦人科の戸を叩きました。
診察の結果、妊娠できない原因は特に見当たりませんでした。
妊娠できない原因が見あたらないということは、きっと近い将来妊娠できるはずだと楽天的に信じていました。それから数ヶ月が過ぎましたが、生理は相変わらずきっちり訪れました。
私は、それからも何度かその産婦人科へ通いました。しかし何度足を運んでも、妊娠できない原因は見当たりませんでした。
今思えば、もっと早い時期に大きな病院へ行くべきだったと思います。内診だけでなく、検査をすれば妊娠できない原因が早くに分かったのではないかと後悔しています。
しかし当時の私は、子どもができない原因が見当たらないと言われることで安心したかったのかもしれません。大きな病院で検査を受けた際、「あなたは子供ができない」と、もし言われでもしたら・・。
考えただけでも怖くて、大きい病院で受診するという行動を起こす勇気さえも、私は持ち合わせていませんでした。
結婚して五年が経った頃、一日も狂わなかった生理が初めて遅れました。基礎体温は上昇を続けており、私は期待の高まりを抑えることができませんでした。
しかし、結果は子宮外妊娠。
受精卵が着床した為の卵管摘出手術後の私は、今までよりもまして子供を欲しいと切望するようになりました。
手術で左の卵管を無くした私は、タイミング法を試みました。
医師に言われたことは全て守りました。
お腹の子供を亡くした悲しみを早く打ち消したい気持ちもあったのでしょうか、私の頭の中は治療のことでいっぱいになりました。
排卵日前に友人が遊びに来ても、
「今日は排卵日前だからもう帰って」と家から追い出したことも幾度となくありました。
酔っ払って帰ってきた主人を激しくなじったことも・・。
そのことに関して、主人が私を責めることはありませんでした。
その時の私には、そんな主人の思いやりに気づく心の余裕もありませんでした。
私には左の卵管がない。
今月を逃したらいつ右側の卵巣が排卵するか分からない。
医師の言葉を忠実に守っても、一日も狂わず訪れる生理。どんなに治療に励み、頭の中を治療の事でいっぱいにしても、容赦なく押し寄せてくる子供を亡くした悲しみ。そして、一生子供ができないかもしれないという大きな不安。
焦りと不安と悲しみで、私の心はどんどん追い詰められていきました。
あんなに子供達と関わることに喜びを感じていたはずなのに、子供と会うことにだんだんと苦痛を覚えるようになりました。
赤ちゃんの泣き声を聞けば心がざわめき、妊婦さんを見かけると、どうしようもない妬みが心の奥底から湧いてきました。
以前は、心温かく微笑ましく眺めていた「主人と子供の戯れている様子」さえも、なかなか子供ができない自分に苛立ちを覚える材料でしかなくなってしまったのです。
周囲の人から、
「あんなに子供を欲しがっているご主人の為にも、早く子供を作ってあげなさい」などと言われ、私はますます子供から遠ざかり、真っ直ぐな子供達の眼差しに、笑顔で応えることもできなくなりました。
子供を欲しいと願っていた私の胸中は様々な感情が入り乱れ、誰に対しても心を閉ざしていったのです。






